一般社団法人日本乾癬学会・日本脊椎関節炎学会認定
乾癬性関節炎ハンズオン教育プログラム

乾癬性関節炎診療 Q&A

ハンズオンセミナーで、ご参加の先生からよくいただく質問を取り上げています。

関節評価

初診時に関節症状がない乾癬患者さんの場合、再診以降、どのくらいの頻度で関節症状の評価を行うのがよいのですか?

NICE(英国国立医療技術評価機構)が作成した乾癬のガイダンス*には、「すべての乾癬患者で年1回は乾癬性関節炎の評価を行うこと」と記載されています。評価のタイミングとしては、患者さんの日常生活に不都合が生じているかどうかがひとつの基準になります。診察の都度、手足を含めた上肢や下肢、頸部や腰部を含めた背部などの体軸関節に痛み、腫れ、こわばりがないか、日常動作で困ったことがないかなどを患者さんに確認し、問題があれば関節評価を行い、問題がないようであれば、何らかの痛みの症状が出てきた場合に受診するように伝えるということでよいのではないでしょうか。少しでも疑いを感じたら、関節評価を行うように心がけましょう。また、忙しくて毎回確認できない場合でも、関節の痛みや腫れやこわばり、頸部痛や腰痛を含めた背部痛が乾癬性関節炎で起こることをあらかじめ乾癬の診断時に患者さんに説明しておけば、早期発見にもつながります。

* National Institute for Health and Care Excellence. Psoriasis: assessment and management, Clinical guideline [CG153]. Published: 24 October 2012, Last updated: 01 September 2017. https://www.nice.org.uk/guidance/cg153

診療時間が限られていて関節の触診に十分な時間が割けない場合、ここだけは確認すべきという箇所はありますか?
患者さんによって異なりますが、最も優先すべき箇所は、患者さんが痛みを訴える部位でしょう。手指であれば第1関節(DIP関節)、第2関節(PIP関節)、第3関節(MCP関節)のいずれの関節が障害されているかは、関節リウマチや変形性関節症との鑑別の参考になります。また、痛みの箇所が関節なのか腱付着部なのかも重要な所見です。
痛みを訴える場所がない場合でも、手指や爪に乾癬の症状が新たに出現していれば、時間の許す限り、その手指の関節評価を行うことが推奨されます。また、足趾は患者さんからは訴えにくく診察もしにくい場所ですので、毎回皮膚と関節の症状の有無を問診し、症状がある場合は直接確認したほうがよいでしょう。
乾癬性関節炎疑いの患者さんを紹介するタイミングに悩むことがあります。
何か基準があれば教えてください。
乾癬の患者さんに、関節が痛む、手がしっかり握れない、歩く時に足に違和感がある、首や腰に痛みがあるなどの運動器症状が見られた場合は、すぐにリウマチ専門医に紹介していただいてかまいません。軽度な場合も乾癬性関節炎の初期症状の可能性があるため、軽い症状や腰痛であっても、紹介して評価してもらうことも重要です。一方、受診時はそういった症状はないものの少し前に上記のような症状があったという患者さんも、画像検査で関節炎が見つかる可能性があるので、紹介してもよいと思います。「もし違っていたら・・・」などと躊躇する必要はありません。たとえ別の疾患であったとしても、上記のような末梢関節炎、体軸関節炎や付着部炎の存在は、患者さんにとって、現在あるいは将来のQOLに大きな影響を与える可能性があります。また、乾癬の患者さんでも、変形性関節症や痛風などの他の原因で起こる関節障害を合併することがあります。乾癬性関節炎に限らず、早期に発見し、早期に治療につなげることが大切です。
関節痛の場所が診察ごとに変わることを訴える患者さんがいますが、乾癬性関節炎では一般的なのでしょうか。

すべての患者さんというわけではありませんが、関節の痛みが移動することは乾癬性関節炎の特徴のひとつです。実際、PASE*の質問票の項目にもこの点が含まれています(「関節の痛みが1つの関節から他の関節に移動するように感じる」)。そのため、乾癬患者さんが移動する関節の痛みを訴えられた時は、乾癬性関節炎の可能性も考慮していただきたいと思います。

* Dominguez PL et al. Arch Dermatol Res. 2009; 301: 573-579.

乾癬性関節炎の患者さんでは、どの部位に付着部炎を生じることが多いですか。
末梢では、肘、膝、そして踵(アキレス腱や足底筋の付着部)が好発部位であり、体軸に比較して診察もしやすいので、これらの部位を一度は必ず触診するようにしてください。
乾癬性関節炎を疑った場合、リウマチ医の先生はどのような病歴を重要視しますか。
関節症状と、乾癬およびその関連症状を問診で聞き取ります。
関節症状では、「手指や足趾の関節での腫脹やこわばり・疼痛(末梢関節炎)」、「手指や足趾全体の腫脹(指趾炎)」、「頸部・腰背部・臀部のこわばりや疼痛で特に朝方に強く安静で改善しないもの(体軸関節炎)」、「肘・膝・踵付近の疼痛(付着部炎)」が、現在あるかあるいは以前あったかを必ず聴取します。また、乾癬については、発症時期や部位、これまでの経過、爪の変化に加え、合併症が起こりやすい眼(ぶどう膜炎)や腹部(炎症性腸疾患)の症状や既往の有無も確認します。また、家族歴も重要な情報ですので、患者さんに聞いています。
炎症の存在を確認する際、触診での所見とMRIやエコーの画像による炎症所見は合致するものでしょうか。
一般診療では、触診による腫脹の有無で炎症の有無を判断し、その結果は画像診断とも一致することが多いです。一方、疼痛・圧痛のみで腫脹がない場合では、画像診断でも炎症所見が認められないことが多くあります。また、画像診断のほうがより感度・特異度が高いと思われますが、腫脹・圧痛共に見られない関節部位に画像の陽性所見を認めた場合には、診察困難部位なのか臨床的意義の少ない所見なのかを判断する必要があります。

診療科連携

乾癬性関節炎を疑った場合、リウマチ科でなく整形外科に紹介してもよいですか?
リウマチ専門医の資格を持つ医師や、リウマチや脊椎関節炎の診療経験が豊富な医師がいる整形外科であれば、紹介が可能です。もし、紹介しようと考えた先の整形外科にそのような医師がいない場合には、乾癬性関節炎の疑いがある患者さんを紹介することが可能か、あらかじめ問い合わせておくのがよいのではないでしょうか。また、乾癬性関節炎以外に関節痛の原因があるかもしれませんので、整形外科に紹介する場合には、まず整形外科的な鑑別診断をしてもらった上で、必要に応じてそちらからリウマチ科へ紹介していただいてもよいでしょう。

できれば、先生が診療されている地域のネットワークの中で、日ごろから乾癬性関節炎を診療されているリウマチ専門医または整形外科医とある程度連携しておくのが最善かもしれません。日本脊椎関節炎学会のホームページに学会理事・評議員のリストが掲載されていますので、それを参照して、地域の専門の医師、医療機関に連絡してみるのも一案でしょう。

<参考>日本脊椎関節炎学会:http://www.spondyloarthritis.jp
スマートフォンからアクセスする場合は、こちらの二次元コードを読み取ってください。
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関節症状のスクリーニングという観点から、リウマチ科の先生にご紹介する前に皮膚科としてどのような血液検査を行うべきかについて教えてください。
主な鑑別疾患として、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患による関節炎、変形性関節症、甲状腺などの内分泌疾患などがあります。これらを念頭に、免疫学的検査としてリウマトイド因子、抗CCP抗体(ACPA)、抗核抗体、炎症反応としてCRPと赤沈の検査、そして甲状腺機能や血糖値を含めた一般的な血液検査を行います。ただし、それらが正常であっても関節炎の否定にはなりません。また、乾癬性関節炎では免疫学的検査が通常陰性、炎症反応もしばしば正常範囲内となりますので、乾癬性関節炎を疑った場合には血液検査の有無や結果にかかわらず積極的に紹介を検討しましょう。
乾癬性関節炎は、関節の痛みが出たり消失したりすることがあるように感じています。その結果、常にPASEやPESTのスコアを満たしているわけではない患者さんもいらっしゃいます。どのタイミングで専門医に紹介すればよいのでしょうか。
確かに、乾癬性関節炎は関節や付着部への負荷や気圧の変動により症状に波が生じる疾患と考えられるでしょう。軽度であれば自然軽快、あるいはNSAIDsのみで軽快することもあります。もちろんPASEやPESTのスコアを満たせば乾癬性関節炎が疑われるのですが、早期診断の観点から、PASEやPESTのスコアを満たしていなくても、早めに一度専門医に紹介していただくのがよいでしょう。
院内に乾癬性関節炎を診療する専門医がおらず、また現在紹介可能な最寄りの紹介先も遠く、紹介にハードルがあります。紹介先のよい探し方があれば教えてください。

乾癬性関節炎を含め、乾癬を多く診ていらっしゃる皮膚科やリウマチ科の先生、リウマチ整形外科の先生をお探しの場合は、下記の中で一番近いところにご紹介いただくのがよいでしょう。

【皮膚科にご紹介の場合】
参考:日本皮膚科学会 乾癬分子標的薬使用承認施設
https://www.dermatol.or.jp/modules/biologics/index.php?content_id=4
スマートフォンからアクセスする場合は、こちらの二次元コードを読み取ってください。
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【リウマチ科・整形外科にご紹介の場合】
参考:日本脊椎関節炎学会 役員
http://www.spondyloarthritis.jp/outline/members.html
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参考:日本脊椎関節炎学会 評議員
http://www.spondyloarthritis.jp/outline/councilor.html
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乾癬性関節炎疑いの患者さんを他科に紹介するにあたり、限られた診療時間の中、事前にどの部位にどのような検査を優先的に行えばよいでしょうか。紹介しても乾癬性関節炎でなかったこともあり、紹介の難しさを感じています。
血液検査で炎症反応(CRPや赤沈)の有無や自己抗体(リウマトイド因子や抗核抗体、抗CCP抗体)の有無を確認すると良いでしょう。
可能であれば画像検査では罹患部位の単純X線または腫脹関節など最も症状の強い部位にMRIを行うとよいでしょう。エコーではその時々で所見の出方が変わる場合が多いとされています。
なお、上述の検査ができない場合にも、関節症状がある場合には、乾癬性関節炎か否かにかかわらず、臆することなく紹介してください。紹介の場合は,「この患者さんは乾癬があり,一定期間、乾癬性関節炎の好発部位(もしくは特定部位の関節痛・脊椎痛)の症状を認めますので乾癬性関節炎の可能性を含め、診断並びに治療方針について御高診をお願いいたします」と伝えてはどうでしょうか。